全力疾走日記

喪女でオタクで腐女子というトリプルコンボを決めた女が感想とか日々のあれこれをかくよ

【感想】つまをめとらば/青山文平 このブロマンスがすごい!2016

ブロマンスって言葉をご存知だろうか。

ブロマンス(Bromance)とは、2人もしくはそれ以上の人数の男性同士の近しい関係のこと。性的な関わりはなく、ホモソーシャルな親密さの一種である[1]。Wikipediaから引用

つまり男同士の熱い友情な訳だが、腐女子は大変こういうものが好きだ。友情と恋愛感情は別だと解ってるんだけど、(腐女子自身も友達に恋をしない人の方が多いし)なんか萌えちゃうんだよね。
多分、男同士の友情って女にはどうしても分からない領域のことだから、特別に感じるんだと思う。少年マンガの親友と書いてライバルと読む関係性がとてもキラキラしているように見えるのだ。
男性が思う女子同士のお風呂事情みたいな。(よくアニメでバストくらべあいっことかみるが、バストについては気を使って何も言わなかったりする)
ともかく!腐女子以外がこのブログをみにきているかは謎だけど、ブロマンスは腐女子の憧れなのです。

まあ、一口に腐女子と言っても野生のポケモンのごとく色々タイプがいるわけで。なんでもBLに変換して(画鋲×壁とか)口に入れるタイプもいれば、偏食家もいる。二次創作にしか萌えない人もいるし、一次創作が好きな人もいる。

私はBL的な意味合いではなく、ブロマンスが好きです。ぶっちゃけ男同士の友情に夢を見ちゃってる人です。アイドルはトイレいかないもん><と同等くらい夢見てます。だから、これから語る感想もオイオイ現実は違うぜ!と思っても全て夢を見ている私の妄想だとご理解いただきたいです。夢ぐらい見させてくれ。

長い前置きになってしまいましたが、今回腐女子腐女子じゃない問わず紹介したいのが、今年直木賞を取った「つまをめとらば」です。
ジャンルは時代小説で、短編集という形になっています。
つまをめとらばというタイトルから連想するのは文字通り妻と夫でしょう。実際この本の内容は妻と夫に関わる話ばかりだ。しかし、表題作の妻をめとらばは違う。
江戸時代の隠居した武士二人の話である。

山脇貞次郎と堀川省吾は幼なじみだ。しかし、ここ十年は疎遠だったので、二人はお互いのことをよく知らないまま偶然再会する。ひょんなことで堀川は山脇に家を貸すことになる。なんでも、世帯を持ちたいからだそうだ。

ここまでが冒頭で私の中ではすでに熾火のごとく萌えが燃え始めていた。え!?もう!?ってかんじかもしれないが、幼なじみってワードは大好物です。ありがてぇ…ありがてぇ…。
世の中のラブコメものも幼なじみがヒロインとしていることが多いと思います。それは幼なじみという属性がみんな大好きだし、あこがれがあるからだからだと思う。実は平安時代からある属性だったりする。*1男の幼なじみだとライバル性が強いですよね。ポケモンのレッドとグリーンとか。そんなわけで、もれなく私も大好きです。

しかもただの幼なじみじゃない。省吾は昔貞次郎を虐めていた。しかし、成長してからは、勝てなくなってしまった。そこで仕返しにくるのろ覚悟していた省吾だったが、貞次郎は態度を変えず、省吾が剣道で勝ったら「やっぱり省ちゃんは強いなあ」というのだ。

めっちゃ萌えませんか!?

省吾はこの貞次郎からの赦しを借りだと思ってるんですよ。「やっぱり省ちゃんは強いなあ」という一言で、身体的にも精神的にも負けたと思ったのだ。子供の頃のことをずっと覚えていて、借りだと考えている。一方貞次郎はなにも気にしていない。お互いの関係を対等だと思っている。こういう対等に見えて実はコンプレックスを持っているとか、アンバランスな関係がすごく萌える。

かくして、一緒に暮らし始めた二人。しかし、一向に『妻』は姿を現さない。
そして、貞次郎が算学の師範ということを始めて知る。

「俺はおまえのことをなにも知らなかった、ということだな」
目の前の貞次郎は、並べ替えられた本の山のようだった。以前と同じようでいて、まったく変わっている。
「お互いさまだ」
省吾に顔を向けて、貞次郎は言った。
「俺も、おまえのことをなにも知らん」
そして、つづけた。
「おまえが俺を知らん以上に、俺はおまえを知らん。いま、なにをしているのか、なんでそういう仕儀に至ったのか。俺はいまそれを語ったが、おまえはまだなにも語っておらん」

幼なじみで、一見近いように見えて、実は遠い存在だということがわかる。偶然であって、お互いを知ることからまた友人関係がはじまる。運命的だ。
そう言われて省吾は自分のことを語り始めた。今まで娶った三人の妻のことを。


それからひと月経っても貞次郎が世帯をもとうと思っている女が現れることがなかった。しかし、省吾は女を心待ちにしていなかった。

自分がなにを好むかは、ほんとうに好むものと出逢って初めて分かる。省吾も、ほんとうの平穏を知って、それが自分にとってなにより大事と気づいたのだった。そして、その最も大事なものを得るためには、貞次郎という相方が要ることにも気づいた。
(中略)
男と暮らすということは、こんなにも平らかで、穏やかなのかと思った。
むろん、男ならば誰でもいいはずもない。しかし、穏やかな暮らしを共に送るための最良の男と、穏やかな暮らしを共に送るための最良の女のどちらかを選ぶとすれば、自分はまちがいなく、最良の男のほうを選ぶだろうと思った。

ここの文章とてつもなくブロマンスが凝縮されていると思いませんか?
妻といるときの省吾は平穏とは無縁だった。省吾が争いを好まないため、妻に合わせてきたからです。結婚したならば、どちらかが、あるいはどちらもが譲歩しなけらば成り立たないからです。けれど、今まで結婚してきた女達は「自分が一番正しい」という信念をもった女達だった。それに比べて気の置けない友人というのは、好き勝手言い合える。やはり同性と異性では態度が変わってしまう。異性の前では自分を取り繕ってしまう。(自然体でいれる男女もいるのかもしれないけれど)
え?え?なにこれ同人誌???(表紙二度見)な、な、直木賞だ~~~~~!やったね公式でした!ってかんじ。
ぶっちゃけこの時代特有の衆道文化の話にも少し触れて、省吾も違和感はないと思う。しかし、その後で男を連れ合いとして好きになるのは無理だときっぱりという。なんとなくその気持ちは私にも解る。恋愛に等しい友情ってあるよなあっていう話。私も思春期の頃、大好きな友人と共にいたら、いつまでもこのままでいたいと思ったものです。友人に嫉妬したり、疑似恋愛のような感情を抱く人は少なからずいると思う。
省吾も貞次郎も相手に自分を投影してる部分があるのかもしれないと思った。


そして、最後のたたみかけが最高に萌えるポイントである。すこし長いが、抜粋するので是非噛みしめてほしい。

「おまえんとこの塩梅はどんな具合だ」
「梅一斗につき、塩二升五合といったところだ」
「少し甘いな」
「そうでもあるまい」
「それでは日持ちがせんだろう」
梅の話はまだつづいた。
「三度の夏は越えられんぞ」
「越えられんか」
さすがに、それはない。
「ああ」
「味噌はどうだった」
潮時だと、省吾は思った。
「おまえはどうだった」
貞次郎はまだぐずった。
「俺の口には合わなかった」
「俺もだ」
(中略)
「算学の話はどうだ。しなかったのか」
「した」
すっと、貞次郎は答えた。
「したが、少しだけだ。俺は算学の話を少しではなくしたかったが、すぐに味噌の話に戻った。この界隈で、他に買っていただけどうな処の心当たりはございませんでしょうか、ときかれた」
「そうか」
「たいしたものだな」
空を見上げて、貞次郎は言った。
「ああ、たいしたものだ」
「どうやっても、かなわんな」
「ああ、かなわん」
「省吾」
意を決したように、貞次郎は名前を呼んだ。
「ああ」
「俺はここを出ていくことにしたよ」
「そうか」
その日は梅雨の晴れ間で、空が抜けるように青かった。
「やはり、あの煮豆屋の女と一緒に暮らすことにした」
「踏ん切り、ついたか」
「ああ、佐世と会って踏ん切りがついた。張り合っても歯が立たん。俺は女に頼ることにする。やはり、女に死に水をとってもらう」
「決めたのなら、是非もない」
「ここで女と暮らしてもよいかと思ったのだがな。ここだと、未練が残る」
「なんの未練だ」
「一度は爺二人でずっと暮らしていこうと思った未練だ。せっかく踏ん切ったのに、またずるずると尾を引きそうな気がする」
「そうかもしれん」
「おまえはどうする」
「さあ、どうするかな」

なんでもない会話を交わすことで、迷いが読み取れる。このまま平穏で停滞した時をすごすか、女とすごすか。結局貞次郎は平穏より女を選んだ。省吾の顔を見て、煮豆屋の女を見初めた自分の目に狂いはないと知ったし、佐世との再会を経て、女は強いということを知り、「踏ん切り」がついたのだろう。
貞次郎曰く、男だけで暮らしてゆくのは「気概も力も足りない」から暮らしていけないのだという。平穏は停滞だと思う。だから、戯作や算術の源であった「毒」が薄れていったのだと思う。このまま二人で暮らしていったら、生ける屍のようになっていたのかもしれない。
多分、女と暮らすことに決めた貞次郎は二度と省吾のところには戻ってこないのだろう。戯作をやめてもいいか、このままの平穏でいいかと思っていた省吾は、貞次郎が出て行くことを受け入れたが、そのとき何を思ったのだろうか。また、もとの静謐すぎる孤独にもどるのだろうか。それを考えると切ない。
友情は恋愛の前では敗れてしまうという切なさがたまらなかった。


この本に赤ペンとマーカーで受験前の参考書のごとく萌えポイントを書き込みして誰彼かまわずプレゼントしたいです。

今回はブロマンスに萌えたから色んな人におすすめしたい!という気持ちでこの記事を書いたので、表題作に触れるだけで留めるけど、他の作品も味があって面白いのでこの本自体をダイレクトマーケティングしておきます。
未読の人は是非妻をめとらばだけでも読んでほしい。そして私とブロマンスの世界に浸ろう。

つまをめとらば

つまをめとらば

*1:伊勢物語の筒井筒

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